バイトで副店長にマジ泣き 最終話

――――どうして、こんなことになっちゃったんだろう。
楽しい楽しいボーリングのはずなのに、どうしてこんなにも苦痛なんだ?



俺はこんな現実を望まなかった。だから、これは失敗だ。
だったらどこで道を間違えた?
面接の時?初出勤のとき?バイト始めてから1週間?2週間?1ヶ月経ってから?それとも今日、ほんの数時間前か?

もしかすると、平行世界のもう一人の自分の中に、今皆と打ち解けて楽しくボーリングをしている自分が居るかもしれない。ちゃんと誘いを受けて・・・。
何故そのルートを引くことが出来なかった。なんでこの道に進んでしまった。運が悪かったのか・・・。・・・本当にそうか?


いや、どう考えてもこれは必然だ。


面接の時、店長にその場で採用されるようなインパクトを与えられれば今もっと期待されて、はなっから周りからの印象が違ったかもしれない。
(現実には、採用されるまで1週間以上かかった)

それが出来ずとも初出勤の時、元気よく声が出せて、きちんと言われたこと覚えて、ハキハキ受け答え出来ていれば、周りから「あの子は明るくて出来る子」っていう第一印象を与えられたかもしれない。


第一印象、か・・・。
人間関係において、第一印象ほど重要な事ってあるだろうか。
学校にしたって、会社にしたってそう。俺にはよく分からないけど、恋愛とかもきっとそうなんだろう。
第一印象で「出来る奴」だと判断されれば、良い事をすればするほど「ああ、やっぱり出来る人なんだな」と思われ、例え1度や2度の失敗をしたくらいじゃその人に対する評価は落ちない。「人間だからそりゃ失敗くらいする」程度で済まされる。実際そうなんだけれども。
第一印象で「ダメな奴、弱い奴、」と見られた場合はその全く逆だ。
良いことしても「たまたま」、ダメな事すりゃ「ああやっぱりな」。
とにかく下に見られる。上から見下すように、高圧的な態度を取られるから、「ダメな奴イメージ」を払拭する力が無い奴は、それでどんどん弱気になっていって自信喪失してしまう。なんというか、"淘汰"だな・・・。

俺のバイト先での第一印象は、まさに後者の「ダメな奴イメージ」だったのだろう。
もちろん、1週間、2週間、1ヶ月と地道にイメージ向上させていくことだって人によっては可能かもしれない。だが俺にその力は無かった。だから、2ヶ月経った今も「ダメなやつ、つまらないやつ、弱いやつ」というレッテルは残ったまま。遊びに誘われすらせず、来たら来たでN君のような明るく、仕事の出来る優等生タイプの人間に見下され、いじめられる。
・・・つまりそういうことか。俺が今日こうなることは、初出勤の頃から・・・いや面接の時点で決定していたんだ。予定調和なんだ・・・。

考えてみれば今のバイト先だけじゃない。昔っからそうだ、俺はどこいっても第一印象で躓いていた。元気がない、覇気がない、オーラがない、暗い、おとなしい・・・。
人間関係がうまくいっている時も、ただ「嫌われたくないから」の一心でひたすら無難な行動ばかりとって、それがたまたま成功していただけだ。
俺は。。。根っからのダメダメ野郎だ・・・。
それがこのバイト先では如実に現れてしまった。

糞・・・、なんで、なんで、なんで、俺は・・・


「・・・・・・~君、・・・・・・・・・こう君・・・・・・・・・・こう君」


ああ・・・強くなりたい、今の弱い自分を変えたい


「・・・・・こう君、・・・・・・・・・・・・もこう君!!!!!!!」

――――えっ?


「もこう君!!何ぼーっとしとんの?はよ投げや。一投目やで。」
すっかり自分の世界に入っていた自分を引き戻すように声をかけてきたのは、同じパー組になったキッチンの社員さんだった。

俺「あっ・・・すいません。なんか、えーっと・・・。・・・あれ、俺一番目ですか?」
社員さん「そうやで。これラストゲームやからな、気合いれていっときいやw」

クスクスと笑うのは、もう一人同じパー組のホールの女の子、そしてN君。
そうか、そうだった。俺、さっきのお別れグーチョキパーでまたN君と同じチームになっちゃったんだ。いつの間にかもう6ゲーム目始まるのか。
さっき変なこと考えてたから、なんか気持ちが乗らない。もういいや、笑われても。何言われてももういい。どうでもいい。さっさと投げよう。

すっかり意気消沈した俺。N君に超大袈裟ハイタッチをかましたあの気迫はどこへやら。
魂の抜け殻のように、死んだ目をしながらただレーンばかり見つめ、自分の番がくると気だるそうに弱々しくボールを投げた。ガーターを連発する。終わってみると過去最低の50点台を記録。
もはや幽霊だった。地に足が付かず、完全に浮いていた。色んな意味で、浮いていた。。

N君や同じグループのメンバー達、いやきっと他の皆も、もう誰も俺の姿さえ見えていなかっただろう。
5ゲーム目、ムーンライトストライクゲームで社員さんが取ったストライクの記念として写真撮影があった。
俺は後ろの方で無表情のまま立っていた。きっと、この時の写真は心霊写真になるだろうな。

あれだけ待ち遠しかった解散の時が来る。感情を失っていた俺にとっては全てがどうでもよかった。なんならもう6ゲームやったっていい。どうせ一緒なんだから。
自堕落な態度を取る。 本当に何もかもどうでもいい。何もかも・・・

場所は受付カウンターのレジ前。参加メンバーのボーリング代徴収タイムだった。
Mさんがお金を集金している。

副店長「ほい、これ、二人分。」
Mさん「あ、はーい。確かに受け取りました~」

本当だったら俺が出さなきゃいけない金だ。何食わぬ顔でさっと払ってくれた。お礼しなくちゃ・・・。

俺「あっ・・あの、副店ちょ
社員さん「料理長、今日はお疲れ様でした!どうでした?楽しんでくれたんならよかったですけど。」
副店長「おお、お疲れさん。おもろかったわ今日は!せやけど体疲れたわww明日休みやなかったらどうなっとったかww」
社員さん「はははっ!僕も疲れましたよ。でも明日普通に出勤日ですわwはよ帰って寝たいんで、もう出ますね僕ら。お疲れさまっした!また今度よろしくお願いします。あ、もこう君もおつかれな。ほな~」

社員さんの車で来ていたメンバーは皆一足先に駐車場へ向かっていった。というか、今日って社員さんの企画だったのか。てっきりN君かと思っていた。・・・今更どうでもいい事か。

残ったメンバーもぼちぼち帰りの支度を始める。どうやらN君がもう一台の車を運転するようだ。

N君「副店長おつかれさまっしたーーー!僕らもそろそろ行きますわーー。今日楽しかったです、ありがとうございました。今度おごってくださいwww」
副店長「何いっとるねんお前www あほか、気付けて帰りやほんま。おつかれさん」

俺「・・・」
副店長「・・・ふう、さて、こっちもぼちぼち帰ろか。送ったるわ駅まで。どこやったっけ?」
俺「・・・ありがとうございました。」
副店長「ん?」
俺「ありがとうございました・・・・・・!それとすんませんでした・・・・。ほんまにすんませんでした・・・・ありがとうございました・・・・。俺、今日、来てよかったんですけど、やけど、なんか、あの、その、いや、本当に楽しかったんですけど、でも・・・うぅ」
副店長「あーもう、分かっとる、分かっとるって。ええやんけ。な。もこう君よう投げてたやん。よかったと思うで。おん。せやから、帰ろうや。眠いやろ?お前バイト終わりやもんな。さ、いこかー!」

その後、俺は何も言わずに副店長の車に乗り込んだ。
副店長が車のエンジンをかけ、出発しようというとき、同じ駐車場に居たN君達がまたお別れの挨拶をしにきた。もちろん、副店長にだけ。俺はただ助手席で俯いて彼らが去るのを待っていた。
そして車は出発する。


帰りの車の中、それまで麻痺していた肉体的・精神的疲労が蘇り、物凄い睡魔が俺を襲う。だけどそれ以上に募る、副店長への感謝の気持ちを、今日ボーリングの最中、お礼一つすら出来なかった分、これでもかというほど叫んだ。ありがとう、ありがとう、ありがとう、と。それを横目になだめてくる副店長の優しさが身体全体に沁み込んできて、俺は再び涙した。

俺「あの、お金いくらだったんですか。今度お返しします。」
副店長「ああ?いや、ええよええよそんなん。」
俺「いや、そんなんって、いくらなんでも申し訳ないんで、どうかお返しさせてくださいよ・・・。」
副店長「あかんあかん、気にせんでええそんなん。それよりお前、後ろの席になんか本あるやろ。ちょっとそれ取ってみ」
俺「はあ・・・・。本ですか?ちょっと待って下さい。ガサゴソ・・・  
あ、これのことですかね。」

それは、タイトルから推測するに、心理学?なのか良く分からないが、人間関係について書いてあるような書籍だった。

副店長「あんな、さっきちゅーか、ボーリング行く前やけど、俺も人とコミュニケーション取るの苦手や言ったやん。」
俺「ああ、そういえば、そんなお話しましたっけ。」
副店長「そそ、んでな、俺もさこういう仕事やってるとやっぱり会話とかって重要になってくるし、いわゆるコミュニケーション能力やな。そういうのないとあかんねん。でも、俺の性格っていうのは基本的に人と会話するのが得意とちゃう。」
俺「・・・僕もまさにそれっすわ。」
副店長「やからさ、そないな本読んだりして、割と真面目に勉強してみたりするんや。まぁ俺なりの努力やわな。」
俺「そうだったんですか・・・。でも副店長って普段全然そんな風に見えませんよね??」
副店長「やから、それは"演じて"るっていうか、ちょっとでも周りからいい印象持ってもらうためにな、例えば笑顔やな。普段からニコニコしてたらやっぱり話しかけやすいし、それとあと、やっぱりこっちから積極的に話しかけていったりな。難しいと思うけど、やっぱり何か喋らんことには自分という人間がどういう人なんか分かって貰えんからな。どういう人なのかも分からん奴に、喋りかけにくいのは誰かてそうやろ。」
俺「・・・」
副店長「まぁ、そら無理して自分から話題振ることもないと思うよ。やけど、皆がなんか話してるときとかさ、仕事しながらでもなんとかそれに耳傾けてみて、自分が入れそうな話題やったらちょっと会話に混ざってみるとかな。それくらいは出来てもええと思うよ。」
俺「・・・ですよね。やっぱ、何かしら自分からもコミュニケーション取っていかんとね・・・。それ一応普段から意識してるんすけどね・・・どうもね・・・やっぱこう・・・なんか・・・。」
副店長「そらな、もこう君の性格っていうもんもあるし、うまくいかんことも多いやろ。まぁでも勉強にはなっとるんとちゃう?バイトはこういう社会勉強の場でもあるわけやんか。お前こういう系のバイトとか初めてとちゃうん?そら最初っからうまくなんていかへんよ。中には出来る奴もおるやろうけど、そういう奴は元々向いてるんやろうな。なんでも向き不向きってのはあるよ。
まぁまぁ、もこう君がこのバイト不向きって言うわけとちゃうけど、とにかく今はいろんな経験しとくことやな。それは若い君にとってやっぱり財産になるわけやから。うん。」

何故だろう、凄く疲れてて、今にも寝てしまいそうな程眠いのに、副店長の話がすんなりと頭に入ってくる。副店長として、というより、人生の先輩として俺のために親身になってアドバイスをくれているんだなと分かる。
あれだけ病んでいた自分の心を一筋の光が射した気がした。
俺も将来、この人のような立派な大人になれるのだろうか・・・。

いつしか車内はしんみりとした空気になっていて、二人とも口数が少なくなっていく。と、気が付いたらもう俺ん家まですぐじゃないか。
駅まででいいって言ったのに・・・。最後の最後まで世話になりっぱなしだ。ああ、情けねえ本当情けねえ。

副店長「おし、もこう君確かこの辺やろ。アパートの場所わからんからとりあえずここまででええか。」
俺「とんでもないです・・・。わざわざこんなとこまで送ってもらって・・・。」
副店長「ええ、ええ、気にせんでええ一々。ほなな。今日はごくろうやったな。俺明日は仕事休みやけど、また同じ日なったらよろしく頼むわ。
んで、なんかまたあったら相談してくれてええ。ま、気軽にな。ほな、おやすみ~」
俺「あっ・・・。 お、お疲れ様です!今日は本当にありがとうございました。すんませんでした。いつかお礼させてください、ほんまに!ほんまに・・・・!じゃ、じゃあ、おやすみなさい!」

バタンッ

俺は副店長の運転する車が見えなくなるまで手を振り続けた。

ついに帰還した。
もう、考えるのはやめよう。今日はいろいろあった。だけど、振りかえるのはやめよう。今はとにかく眠くて、疲れた。疲労困憊だ。寝させてくれ。また夜からバイトだし。

ふらふらになりながらアパートに戻る。
誰も迎えてくれないけれど、やっぱり自分の部屋は落ち着く。外はもう明るいけどさぁ寝るぞ。寝まくるぞ。

ボフッ

寒さで冷え切った敷布団の上、目を閉じる。ああ、今日はよく寝れそうだ。
いっそこのまま永眠してしまってもいい。
なんてな。


・・・・・・・ふと、何気なくポケットに手をつっこむと、今日はお金を一銭も持っていなかったはずなのに、何故か150円が出てきた。

俺「あれ・・・これ、なんだ・・・。」
その時、今日あった全ての事が走馬灯のようにフラッシュバックする。

俺「あああ、そうだ、あれだ、あの時の150円!!ボーリングの賭けで貰ったやつだ。
そうだよ、これ、良く考えたら一回賭け負けた時これで払えたじゃん。うわあ、なんて馬鹿なことしてるんだ自分・・・。本当なんの冗談だよ。ボーリング行って、金払うどころか逆に150円儲けて帰って来たって・・・。馬鹿か・・・。クソっ、クソっ!!クソ!!!!」

100円玉に大粒の涙が落ちる。あろうことかこの男はまた泣いている。今日何度目だ。いい加減枯れろよその涙。逆によくここまで泣けるな。

俺「・・・ダメだ、俺、本当にダメな人間だ。弱い、弱い、強くなりたい・・・。
ああ、この気持ち一人で背負ってなんていられない。
どうしても誰かに伝えたい。共感してほしい。どうすればいい。
・・・ああ、そうだ。」

布団から飛び起き、パソコンを立ち上げた。

俺「ブログでも、、、書くか・・・。」




『副店長相手にマジ泣きして話聞いてもらって一緒にボーリング途中参加させてもらっておまけにボーリング代出してもらった奴って俺以外に居るの?』



完。



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